知的財産:Vol.29 市民の知財「くいだおれ人形」はどこへ行く

知的財産
先日、大阪・道頓堀の飲食店「くいだおれ」の閉店が発表されました。大阪人の喜びや悲しみを共にしてきた店舗だけに、いろいろな思い出や想いをお持ちの方が多いのではないでしょうか。一方で、「くいだおれ」という看板を守ろうとする動きも出ているようです。この看板こそがブランドであり、商標なのです。「くいだおれ」を知的財産の視点で説明したいと思います。

「くいだおれ」の知的財産としての歴史

 「くいだおれ」の商標登録は古く、1954年には既に登録がなされていたようです。その後、関連する商品等に範囲が拡げられ、現在までに50以上の商標権が取得されています。商標制度の変革に沿うように、役務(サービス)商標、立体商標の登録も取得され、まさに日本の商標登録制度の歴史そのものといった感じです。特に、立体商標にいたっては、「くいだおれ太郎」の人形自体が、商標登録されており、数少ない立体商標の1つです。

 

 

 

「くいだおれ」という財産

 商標権と単に言った場合、財産権としての価値についてピンとくる方は少ないのではないでしょうか。しかしながら、商標権は知的財産権の1つであり、まさに財産なのです。ただし、土地や家屋のような財産と違って、目に見えない財産なのです。財産である以上、登録という手続も(土地や家屋の場合は登記)伴いますし、売買の対象にもなります。そして、売買の時には、その金銭的な価値に見合ったお金の授受があるわけです。

 

 

 

 

 

商標権の売買は単なる名称の売買とは言えないのでは?

 一般に土地や家屋のような財産の売買は、お金で売った買ったの世界だけの話になってしまいますが、商標の場合はその性質が大きく異なるかと思います。商標の場合、「くいだおれ」でも明らかなように、消費者(一般市民)の想いがその商標のなかに息づいており、みんなの想いが、その商標の信頼と価値を作り出しているのです。ですから、商標権の売買には、一般市民の心の拠り所の持ち主の移転という、重大な意味が包含されていると私は感じます。

 

持ち主によって、その価値が変わる?

 上述したように、商標権が単なる売買で権利者が移転されるものでない以上、だれがその権利を取得するかが大きく問題になります。つまり、持ち主によって、その価値が大きく変動することになるのです。もちろん、価値が増大することもあれば、逆に価値を失ってしまうこともあります。それだけに、譲り渡す側も譲り受ける側も、それ相応の覚悟が必要なのではないでしょうか。

 

商標は文化の一形態

 ここまで説明してきたように、長い歴史を刻み、市民に愛され続ける商標は、単に商店名の域を脱し、文化の一部になっていると思います。とはいえ、「くいだおれ」だって、最初はなんの信頼もない1つの言葉にすぎなかったはずです。逆に、言葉を事業と共に育てることで商取引を通して文化を創造することが可能だということを、「くいだおれ」が証明しているのではないでしょうか?起業・創業し、事業を営む者には、その文化創造のチャンスが多いにあるのではないかと私は思っています。