起業アイデア 第8回 学習テーマ【開業資金とアイデアの関係】

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

開業資金の不足は、アイデアで補う

解説

【店舗物件ではなく、オフィス物件を契約】

子育ても終わり、美容業界に復帰を図った髪沼恵美子 さんは、驚いたことに、通常、 2,000万円以上は要するエリアに、わずか 400万円の開業資金で美容室を開業。同時にカラー技術が不安という悩みも、「その店だから」こそ、クリア。一体、彼女はどうやって、こんなに少ない資金 で開業したのか? そして、どんな店舗運営をしているのか?

美容室といえば、普通は道路に面した 1階の店舗物件か、悪くてもテナントビルの 2階物件に開業するのが常識。ところが髪沼さんは、何とオフィス物件を借りたのだ。

店舗物件 は、入居時に保証金として賃貸料の10ヵ月分を要求されるのは常識。仮に賃貸料が50万円なら、10ヵ月分で 500万円。さらに前家賃と不動産業者への仲介料がそれぞれ 1ヵ月分で都合 100万円。しめて 600万円の物件取得費がかかる。

対し て、30坪くらいまでのオフィス物件なら、敷金・礼金が通常の住居物件と同じことが多い。髪沼さんはオフィスビルの 4階物件を契約。賃貸料は20万円。敷金 2ヵ月分、礼金 1ヵ月分、前家賃 1ヵ月分。オーナーと直接契約したので仲介料は不要。ということで、しめて80万円で物件取得費が済んでしまった。

【カット専門だから給排水設備が不要】

「なるほど」と思う人もいるだろうが、実は、美容業界関係 者なら、この話は「ウソ?」ということになる。なぜか? オフィス物件では、給排水設備が整っておらず、新たにそれを設置することは現実味がないからだ。

美 容室は、言わずと知れているように、大量の水を使う。さらに排水には、パーマ液や染料、毛髪なども交じるため、それらを浄化したり、除去したりする設備が 必要になる。店舗物件ですら、こうした設備を整えるためには 100万円以上の工事費がかかる。オフィス物件では、一体いくらかかってしまうのか……という話になる。

では、髪沼さんはどうしたのか?  彼女は店に給排水設備を取り付けなかった。給水も排水しないのだ。では、シャンプーは? やらない。パーマやカラーリングは? それもやらない。どういう こと? 彼女がオープンさせたのは、カット専門美容室だったのだ。

だから、給排水設備工事が不要なだけでなく、洗髪台も不要。シャンプーや リンス、パーマ液や染料、脱色剤なども不要。シンプルさが売り物だから、派手な内装や装飾、照明類も不要。これらの「不要」の合計で、軽く数百万円は開業 資金が削減できる。

結局、髪沼さんが開業に要した費用は、物件取得費80万円、内装工事費60万円、看板費50万円、空調工事費90万円、 備品費30万円、宣伝費30万円、開業前人件費30万円、仕入れ10万円、雑費20万円の合計 400万円だけ。通常の支出の実に 2割である。

【高回転率と低コストで利益を生み出す】

しかし、カットだけで、お客さんが来るのだろうか?  これが来るのだ。カットだけなら、一人当たりの所要時間は10~15分。料金は一律 1,000円。スタッフの技術は確か。だから「早い、安い、うまい」の 3拍子がそろった店とウワサになり、そのおかげで、女性客はもちろん、従来、理容店に通っていた男性客までも獲得してしまった。

十分な客 数、回転率の良さ、水や消耗品を使わないことによるコストの低さ。髪沼さんの店はこれらの要因で常に黒字経営だ。さらに、料金を一律税込み 1,000円としたことで売り上げ管理もスムーズになり、釣り銭間違いの心配も減った。こうした管理コストやロスを低減させていることも、利益に貢献して いる。

【「できないことはしない」が差別化のもとに】

ところで、髪沼さんは、 なぜ、こんなタイプの店を考えられたのか? 「ないないづくし」が功を奏したのだ。普通の美容室を開こうにも資金がなかった。また借り入れができたとして も、年齢から考えると返済年数を長く取れず、月々の返済額が重くなることから、結局はそれも無理だった。加えてカラー技術にも自信がなかった。

そ れならいっそ資金はかけない、カラーはやらない、と開き直った。要は自分ができる範囲で開業を考えたのだ。その姿勢が、こうしたアイデアを生むもとになっ たのである。

 

今週のキーワード<やらないという発想>

「資金がない」や「技術がない」は、決してデメリット一色ではない。普通の店がやらないことをやるのも大事だが、普通の店がやっていること
をやらないという発想も、差別化のポイントになるからだ。「金がなければ、知恵を出せ」と言うが、逆に考えれば、いいアイデアがあれば、開
業資金は想像以上に削減できるのだ。

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