前回に引き続き株式公開に際して避けて通れない上場審査の中身を今回も見て行こうと思います。今回は証券取 引所が設ける「実質基準」についてです。「実質基準」は前回の「形式基準」とは異なり、数値などで定められた定量的な基準ではありません。定量的な基準で ないだけに、審査を受けてみないとなかなか理解できない部分でもありますので、各基準の趣旨やポイントを踏まえて確認していきたいと思います。
- 目次 -
実質基準とは
実質基準は各証券取引所が「投資 家保護」のため設定している基準ですが、下の表のようにどの証券取引所も良く似た基準を設定しています。以下、簡単に各項目を確認していきます。
1. 企業の継続性および収益性
この項目は申請会社が上場した後も継続的に事業を営むことができ、かつ、経営成績や財政状態の見通しが良好であるこ とを要求しています。
「継続性」では、仕入れ・生産・販売などの事業活動のすべてにおいて、これまでの販売・仕入取引の実績や各取引先との関係 性を確認するとともに、製品・サービスの需要動向を照らし合わせて事業を継続できるかを確認します。
もう一方の「収益性」では、申請会社の事業 計画を精査し、置かれている業界の動向やこれまでの収益動向を確認し、上場後もこれ以上に利益水準を高めていけるかを確認されます。
2. 企業経営の健全性
この項目では、申請会社が公正かつ誠実に事業を行っているかを確認されます。具体的には、申請会社の役員や大株主など、特に 申請会社と近い関係にある特定の者にだけ特別に有利な条件で申請会社と取引(金銭の貸借やモノの売買等)が行われていないかを確認されます。
そ の他には、役員構成が同族色が濃く偏っていないか、役員の兼務が多く申請会社の経営に支障が生じる状況にないか、監査役監査や内部監査が適切に行われてい るか等が確認されることになります。
3. 企業内容等の開示の適正性
上場前と上場後とで大きく変わるの が、企業内容の開示義務です。上場後は、有価証券報告書を法定の期日内に提出するのに加え、証券取引所が定める規則に則って決算情報を発表し、特定の事象 が生じた際にはプレスリリースを発表するなど、継続的に投資家への情報開示を行っていかなければなりません。
これらの開示を適切に行うための前 提として日常の経理業務が適切に行われているか、利益計画は自社の置かれている環境や製品力を反映して適当なものであるか、などを確認されることになりま す。
4. その他公益、または投資者保護の観点から、証券取引所が必要と認める事項
この項目では、証券取 引所が必要とした項目はすべて審査対象になるというものです。投資家保護という観点から、申請会社が法令違反をしていないか、係争事件が生じていないか等を 確認されます。
5. 「子会社上場関係」については、次回詳細にご説明します。
各 証券取引所の主な実質基準のポイント
東証1部、2部 |
東証マザーズ |
ジャスダック |
大証ヘラクレス |
企業の継続性および収益性 |
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企業の継続性および収益性 |
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企業経営の健全性 |
企業経営の健全性 |
企業経営の健全性 |
企業経営の健全性 |
企業内容等の開示の適正性 |
企業内容、リスク情報等の開示 の適切性 |
企業内容等の開示の適正性 |
企 業内容等の開示の適正性 |
その他公益または投資者保護の観点から証券取引所 が必要と認める事項 |
その他公益または投資者保護の観点から証券取引所が必要と認める事項 |
その他公益または投資者保護の観点から証券取引所が必要と認める事項 |
その他公益又は投資者保護の観点から大証が必要と認める事項 |
子会社上場関係 |
子会社上場関係 |
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子会社上場関係 |
性善説より性悪説
上場審査において特徴的なのは、「性善説」ではなく「性悪説」を前提に審査 されるということです。上場審査における基本的な項目を例えとしますと、経理(主計)部門と財務(出納)部門は1つの部門ではなく、別々の部門にして責任 者も分けなければなりません。これは、会計帳簿をつける担当者と現金を取り扱う担当者を分けなれば、その担当者は不正を行える環境にあるからです。
ここで、「うちの会社は担当者を分けていないけれど、誠実な人間が担当しているので不正はおこさない」と言う会社様がいらっしゃいます。しかし上場審査で は、不正が起きていないからOKとするのではなく、不正を行えない仕組みを構築しなければならないという考え方をします。たまたま今の担当者が誠実な方 だったので不正は起きていないかもしれませんが、担当者が変わった途端不正が生じる可能性があるからです。
こういう意味から上場審査は基 本的に「性悪説」で行われるのです。