会社経営に必要な法律 Vol.51 「不当要求」と戦う方法教えます。

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

岡山市の中堅スーパーが納入業者に不当な返品や従業員の派遣などを強要していたとして、公正取引委員会は、2010年の5月に優先的地位の濫用による独占禁止法違反の疑いで、同社の本社や店舗など20数ヵ所に立ち入りました。そこで、今回はこのニュースを取り上げ、今年1月から施行されている改正独占禁止法の課徴金制度について解説し、また、ベンチャー企業が大手企業と取引する際に留意すべき事項について解説します。
 

[ニュースの概要]

山陽マルナカは、納入業者に特売品の売れ残りを不当に返品したり、従業員の派遣や値引きを強要したりしていた疑いがもたれています。実は、2004年にも同社は、無償で納入業者に商品陳列を手伝わせたり、紳士服を購入させたりするなどしたとして、公正取引委員会から排除勧告を受けています。2010年1月から施行されている改正独占禁止法では、取引上の立場を利用して不当な利益を要求する優越的地位の濫用について取引高の1%の課徴金が課されることとなっています。今回の調査で優越的地位の濫用による独占禁止法違反が認められれば、初の課徴金制度適用事例となります。

[法律上の問題]
1 独占禁止法の概要
独占禁止法(「私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律」)は、公正な経済競争を促進することを目的とするものです。市場経済では自由競争が原則ですが、独占禁止法は、どのようにして公正で自由な競争を促進させるかという観点から、私的独占の禁止、不当な取引制限の禁止、不公正な取引方法の禁止、企業結合の規制などを行っています。また、これらの規制に実効性を持たせるため、排除措置命令や課徴金の制度などが設けられています。

2 2010年1月施行の改正独占禁止法による課徴金制度の見直し
これまで課徴金制度は、不当な取引制限と支配的私的独占のみが適用対象となっていましたが、改正独占禁止法により、排除型私的独占、不当廉売・差別対価等、優越的地位の濫用についても適用されることになりました。優越的地位の濫用は、不公正な取引方法の一類型です。取引の当事者間に資本や事業規模などについて大きな隔たりがある場合に、優越的な立場にある事業者が納入業者や下請け業者などに対し、不当な返品、不当な値引き、従業員等の不当使用、押しつけ販売などを強要する行為は、優越的地位の濫用にあたります。

課徴金の算定率は、課徴金の対象となる行為類型や業種(製造業等、小売業、卸売業)ごとに定められていますが、優越的地位の濫用については、業種にかかわらず一律1%と定められています。なお、優越的地位の濫用の場合には、課徴金の算定方法が他の行為類型とは異なり、違反行為にかかる取引先との違反行為が行われた日から、当該違反行為がなくなる日までの期間(3年を限度とします)における取引額全体が基礎となり、その1%が課徴金として課されることになります。
 

[起業家として留意すべき点]

昨今の経済環境において、ベンチャー企業は、取引先事業者、特に取引先大企業から不当な要求を受けやすく、厳しい対応を迫られる状況にあります。公正取引委員会では、このような状況下において、取引の公正化を推進するために、「中小事業者取引公正化推進プログラム」を実施しています。
 

「中小事業者取引公正化推進プログラム」の具体的実施内容
中小事業者の立場に立った相談・広報 大企業・親事業者のコンプライアンスの推進 下請取引以外の中小事業者の取引の公正化を図る必要が高い分野に係る特別調査 違反行為に対する重点的かつ効率的な処理
・「公取委による中小事業者のための移動相談会」の実施 ・中小事業者専用相談窓口の設置 ・下請法紹介動画配信等の実施 ・業種別講習会の実施 ・親事業者に対する下請法遵守のための年末要請の拡充 ・大規模小売事業者と納入業者との取引に関する書面調査の実施 ・荷主と物流事業者との取引に関する書面調査の実施 ・優越的地位濫用事件タスクフォースの設置 ・下請法上の問題の多い業種等への監視の強化 ・勧告事件にかかるフォローアップ調査 ・下請法違反被疑事実に係る情報収集の取引の拡充

 

ベンチャー企業の経営者の方で、取引先である大企業から次のような要求を受けた方はいらっしゃらないでしょうか。
◆スーパーマーケット業者から、同社が販売する食品など、商品の購入を要請された。
◆ディスカウント業者から、店舗の改装に際して、無償で、他の納入業者の商品を含む商品の陳列業務を行うために自社の従業員を派遣するよう要請された。
◆建設業者から、代金の一部について支払期日を超えた日に支払われた。
◆原料製造業者から、代金について期間150日の手形が交付された。
◆卸売業者から、契約にない荷物の積み込み作業をさせられた。
◆食品製造業者から、関係会社が運営する飲食店の開店にあたり、同店の金券やチケットの購入を要請された。
◆食品卸売業者から、キャンペーンを実施するということで、一方的に使途不明の協賛金の支払を要請された。

上記の行為はすべて独占禁止法違反につながる可能性のある行為です。取引先の大企業からこうした要請を受けた場合、ベンチャー企業の経営者としては、著しく不当な要求であると思っていても、取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすこととなるため、これを受け入れざるを得ない状況にあるものと思われます。しかしながら、こうした要求がエスカレートすれば、いずれは自社の経営を圧迫することとなり、また、自社の従業員をいたずらに疲弊させ、従業員の会社に対する信頼や仕事に対するモチベーションを下げてしまうことにもなりかねません。

公正取引委員会では、「中小事業者取引公正化推進プログラム」の一環として、「優越的地位濫用事件タスクフォース」を審査局内に設置しています。優越的地位濫用事件タスクフォースは、一般から提供された情報や書面調査の回答内容などから優越的地位の濫用に係る情報に接した場合には、その調査を効率的かつ効果的に行い、濫用行為の抑止・是正に必要な措置を講じることに努めています。
限度を超えた不当な要求を取引先大企業から強要されて、お困りのベンチャー企業の経営者の方は、自社の経営や自社の従業員を守るためにも、「中小事業者取引公正化推進プログラム」を活用することを検討されてみてはどうでしょうか。

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