会社経営に必要な法律 Vol.54 不当解雇を訴えた社員を「プラダ」が逆提訴

会社経営に必要な法律

プラダジャパンの元社員が不当解雇を理由として、同社に訴訟提起したところ、プラダジャパンは、この元社員に対し、ブランドイメージを傷つけられたとして、損害賠償請求訴訟を提起しました。そこで、今回はこのニュースを取り上げ、不当解雇や労働審判制度、企業のブランドイメージの棄損等に関する損害賠償請求について法的に解説し、また、ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項について解説します。
 

ニュースの概要

フランス人の夫をもつ日本人A氏は、イタリアの高級ブランド「PRADA」の日本法人プラダジャパンから、容姿などについて嫌がらせを受けたうえに不当解雇されたとして、解雇の無効と精神的苦痛に対する慰謝料を求めて訴訟を提起しました。

ブランドイメージA氏は、同社の元販売部長だった2009年5月、年をとっている、太っている、容姿が悪い、感じが悪い、プラダのイメージに合わないなどの理由で、約15人の従業員を解雇するよう会社から求められました。また、A氏自身も、髪形や体形などについて、ブランドイメージ上問題があるとの発言を受けたため、その事実をイタリア本社に報告したところ、昨年11月に休職処分となったとのことです。A氏は、2009年12月に労働審判の申し立てをし、前職への復職と精神的損害の賠償を求めていましたが、労働審判では和解が成立せず、2010年3月8日、ボブリース氏は解雇されました。その後、A氏は労働審判異議申し立てを行い、元同僚2名と共に、解雇の無効と精神的苦痛に対する慰謝料を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しました。

一方のプラダジャパンは、「すでに東京地裁は元・従業員の告発を退け、解雇は正当だったと決定した」との声明を出し、さらに、ブランドイメージを傷つけられたとして、A氏に対し、3300万円の損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しました。

本件では、職場における年齢や容姿を理由としたハラスメントや、内部告発に基づく不当な解雇、虚偽の訴えによるブランドイメージの棄損など、当事者間の主張が真っ向から対立しています。今後、裁判所によってどのような事実認定がなされ、どのような判断がなされるのか注目されるところです。
 

法律上の問題

1.不当解雇
労働契約法第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。いわゆる解雇権濫用法理と呼ばれるものです。解雇は、労働者の生活基盤に重大な影響を与えることから、実際の裁判においても、「社会通念上相当で、客観的に合理的な理由がある」と認められるのは、かなり限定的な場合に限られています。

懲戒解雇や普通解雇など使用者による労働契約の一方的な解除は、労働者から「不当解雇」として争われる可能性があり、訴訟では、労働契約上の地位の確認や解雇期間中の未払い賃金の支払いなどが求められることになります。また、不当な解雇によって精神的苦痛を受けたとして、慰謝料請求がなされる場合もあります。

2.労働審判制度
労働審判は、司法制度改革の一環として2006年4月にスタートした制度です。労働審判では、裁判官1人と、労働分野の専門知識をもつ審判員2人の計3人で審理が行われます。審理は原則として3回以内とされ、調停、または審判で解決案が提示されます。解決案に当事者が合意した場合、裁判上の和解と同じ効力が生じます。一方、異議申立てがあった場合は、通常の民事訴訟手続きに移行します。労働審判では結論が出るまでにかかる期間が平均70日で、通常の訴訟と比較するとかなり処理期間が短くなっています。また、申し立て費用は、通常の訴訟の半分です。短期間に、実効性をもって労使紛争を解決することができるなどの理由から、利用件数は年々増えています。

  労働審判 通常の訴訟
解決にかかる期間 3~4カ月(原則3回以内) 1~2年
審理を行う人 裁判官1人と労働問題の専門家2人(労働審判委員会) 裁判官
解決方法 調停または労働審判 判決または裁判上の和解
審理の進め方 申立書と答弁書を除き、主に口頭での審理 主に書面審理
費用 通常の訴訟の半額 訴訟での請求額に応じた額


3.企業の無形損害に対する損害賠償
企業に対する信用棄損行為によって企業が損害を被った場合、企業が損害賠償を請求できることは、判例上も確定しており、訴訟実務上でも広く認められています。特に、web2.0時代においては、企業に関する風評が企業のブランドやイメージなどに多大な影響を及ぼす恐れがあり、実際に企業が名誉棄損や信用棄損について裁判で争うケースが増えています。2010年3月には、インターネット上でラーメンチェーンを中傷する内容の書き込みを行った会社員に対し、名誉棄損罪の成立を認めた最高裁判例が出され、話題となりました。
 

 

ベンチャー企業の経営者として

リーマンショック以降の長引く不況のなか、会社の維持存続のために、問題のある従業員や人員の余剰が生じている部門の従業員に辞めてもらわざるを得ないと考えている経営者も少なくないかと思います。しかし、使用者側から一方的に労働契約を解除することはできません。無理に解雇すれば、労働者側から無効を主張され、さらに損害賠償請求されることにもなりかねません。

裁判イメージ最近では、インターネット等を利用することによって、一般の人でも労働紛争に関する情報を簡単に入手できるため、労働基準監督署の相談窓口に気軽に相談に行く人が増えています。会社の枠を超えて職種や地域ごとに組織された、個人で加入できる労働組合(ユニオン)に駆け込む人も少なくありません。また、都道府県労働局が運営するあっせん制度や労働審判制度など、無料あるいは少額の費用で利用できる公的な制度が充実していることから、これらの制度を利用するケースも年々増加する傾向にあります。
従業員の解雇に関して外部機関を通して争うこととなった場合、会社としては、書面による証拠をどれくらい保有しているかが重要となります。たとえば、問題社員を解雇した場合であれば、解雇に至るまでにその社員が起こした問題行動の履歴、会社としてどのような指導・注意を行ってきたかを示す経緯書、その社員から提出された始末書や誓約書、懲戒処分について規定した就業規則などを整理しておくことが必要です。また、整理解雇の場合は、事前に従業員に対して行った説明会の議事録、説明会出席者の署名、従業員に対して行った説明の回数や状況、説明内容などがわかる記録を保管しておくことが必要があります。これらの書面による証拠があることによって、会社は、自らの主張を論理的に行うことが可能となります。万が一のトラブルに備えて、書類の作成はその都度忘れずに行っていただきたいと思います。

もう一つ、従業員を解雇する場合に経営者として留意すべきことがあります。それは、経営者としての説明責任です。会社にとって、従業員は大切なステークホルダーです。会社と従業員のトラブルは、その従業員との問題にとどまらず、他の従業員らの会社に対する不信感を生じさせ、さらに顧客や取引先が会社に対してもつイメージや信用に傷をつけることにもなりかねません。そのようなマイナスを発生させないために、会社は十分な説明責任を果たすことが求められます。従業員を解雇するのであれば、どのような理由に基づいて解雇するのか、解雇する従業員にも、会社に残る従業員にも、納得してもらえるようにきちんと説明することが大切です。そして、常日ごろから、経営理念に基づいた経営を行っている経営者であれば、周囲の納得を得ることも比較的容易であるものと思われます。従業員をはじめとするステークホルダーは、経営者の日頃の態度や発言、行動に注目しています。特にベンチャー企業の場合、会社の信用は、経営者の経営理念や人となりにかかわっていると言っても過言ではありません。経営者には、常にそのような意識をもっていていただきたいと思います。