会社経営に必要な法律 Vol.61 「チョコボール紛争」

会社経営に必要な法律

ピーナッツなどをチョコレートで包んだ人気チョコレート菓子「チョコボール」を販売する森永製菓は、2010年12月27日、アイスクリーム「徳用チョコボール」を販売する名糖産業に対し、商標権を侵害されたとして、販売の差止め及び6000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に提起しました。今回は、このニュースを取り上げ、商標の保護について法的に解説し、また、ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項について解説します。

ニュースの概要

チョコボールイメージ森永の主張によれば、森永は1965年から「チョコレートボール」の販売を開始し、1969年に名称を「チョコボール」に統一して今日まで販売を継続してきました。2009年に名糖のアイスクリーム「徳用チョコボール」の存在を知り、「チョコボール」の名称を使用しないよう求めたところ、名糖は、この要請に応じなかったとのことです。森永は、「多大な工夫と企業努力で主力ブランドの一つに育て上げてきた。企業価値にかかわる極めて甚大な損害を受けた」としています。

これに対し、名糖は、1959年から「チョコボール」という商品名を使用しており、広く認知されていることから、そのような場合には、商標権者がいるとしても、その商標を使うことができる権利(先使用権)があり、商標権侵害にはあたらないと主張しています。

法律上の問題

(1) 商標の保護
商標とは、自己の取り扱う商品・サービスを他と区別するために付する標識のことをいいます。商標は、商標法によって保護されます。「商標を保護する」とは、つまり、商標の排他的独占的使用を商標権者に認めるということです。

日本の商標法は、登録主義を採用しており、商標権は特許庁での設定登録により発生します。また、登録に関しては審査主義が採られており、出願された商標が法律上の条件を備えているか否かを審査官が審査し、権利を付与すべきであると認定されれば、登録されます。

(2)森永の商標権
森永が「チョコボール」の登録を出願した日(出願日)は2004年5月25日ですが、商標として登録された日(登録日)は2008年7月11日であり、出願から登録まで、4年以上かかっています。これは、「チョコボール」の出願について、2005年に一度、商標としての登録を認めないとする特許庁による拒絶査定が出され、その後、それに対して森永により不服が申し立てられ、査定不服審判を経て、登録が認められたとういう経緯があることによります。

商標は、自他の商品・サービスを識別するための標識であることから、識別する力を備えたものであることが必要とされます。したがって、その商品・サービスに普通に用いられる名称やありふれた氏・名称、産地や品質・形状などを表示したに過ぎないものなどは、識別力がないものとされ、商標として登録することができません。森永の出願も、最初の査定では、「チョコボール」は品質・形状などを表示するに過ぎないとして、特許庁から登録できないとする拒絶査定を受けました。

これに対して、その拒絶査定に対する不服が申し立てられた後に下された査定不服審判では、森永が昭和46年(1971年)頃から現在に至るまで「チョコボール」の商標を指定商品(チョコレートを使用した菓子)について多年にわたり使用してきたこと、そしてその結果、現在においては、需要者が森永の商品であることを認識することができるに至ったものと認められることなどから、拒絶する理由はないとして、登録が認められました。

(3) 名糖が主張する「先使用権」
商標権は、独占的効力をもつ権利ですが、他人の権利や利益との調整が必要な場合については、一定の制限が設けられています。名糖が主張する、先使用による商標の使用をする権利(先使用権)も、その一つです。

先使用権とは、他人が出願する前から使用していたことにより周知になった商標を、商標権の効力を排して、継続的に使用することができる権利をいいます。商標法は、登録主義をとっているため、未登録の商標については商標権が発生せず、保護されないのが原則です。しかし、たとえ未登録であっても、企業努力により蓄積された信用は既得権として保護すべきであることから、商標法は、登録主義を貫くことにより生じる取引社会における不公平な結果を回避し、未登録の周知商標を保護するために、一定の条件の下に、先使用による商標の使用を認めることとしています。

今後、「チョコボール」の商標の使用をめぐる森永と名糖の紛争について、双方からどのような主張・証拠が出されるのか、そして裁判所がどのような判断をするのか、注目されるところです。

ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項

保護イメージ知的財産とは、産業、文化上における人間の精神的・創作的活動の成果や、産業活動における識別標識等のことをいいます。そして、知的財産は、産業の秩序維持を図り、それらの活性化により国民生活全体の発展を目的として、特許法や著作権法などの知的財産権法により保護されており、その保護される権利を知的財産権といいます。

特許などの知的財産権について保護強化することを「プロパテント」といいますが、現在は、まさにプロパテントの時代といえます。これは、国家の政策レベルの話だけではなく、企業活動においても同様です。たとえば、最近では、特許を保有している会社が特許の管理・運用のみを行わせる目的で新会社を設立することは珍しくありません。また、広告収入が伸び悩む中で、広告会社が、地元のスポーツ選手のための広告向けの肖像権管理や、地元の文化人や著名人の著作権の管理・運用を行う、いわゆる知財ビジネスに参入する例も見受けられます。

知的財産権には排他的独占権が認められますが、この知的財産権がもつ排他的独占権を利用することにより、競合企業が、類似の商品・サービスを市場に投入することを阻止できます。

また、市場価値の高い知的財産権であれば、譲渡したり使用許諾(ライセンス)したりすることによって、高額の対価や継続的なロイヤリティを得ることができます。特に、研究開発を主な業務とする企業では、研究開発の成果を自ら生産・販売して利益を確保する手段を持たないことから、ライセンス契約の締結による収入の確保は重要となります。

さらに、研究開発の成果や最先端の技術に関して知的財産権を取得することができれば、さらなる開発のための資金調達が容易となります。

このように知的財産権は、様々な利益をもたらす可能性があるものであり、企業としては、知的財産権を戦略的に管理・運用することが求められます。つまり、①市場価値の高い技術や標識等については、積極的に知的財産権を取得するようにし、②自らの権利保護のために利用するだけでなく、他社に譲渡したりライセンスしたりするなどにより、収益を上げることを検討し、また、③取得した知的財産権を侵害されることによって多大な損害を被らないように、リスクの低減を図ることが必要となります。

企業活動において知的財産権を戦略的に管理・運用することができれば、市場において極めて優位な立場に立つことが可能となります。しかし、その一方で、知的財産権の侵害については、侵害行為に対する排除や損害賠償請求という強力な救済が権利者に与えられることから、万一、他社の知的財産権を侵害してしまった場合には、自社に大きな脅威がもたらされることにもなりかねません。知的財産権侵害訴訟において認められる損害賠償額は年々高額化しており、企業としては、他社の知的財産権を侵害しないためのリスク管理も重要な業務となっています。

ベンチャー企業の経営者の方には、知的財産権の管理・運用について関心をもっていただき、自社の大切な知的創作物や商標などの標識について、保護するための手続きを怠っていたために多大な損失を被ったり、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまったりすることがないようにしていただければと思います。また、知的財産活動に戦略的かつ積極的に取り組むことによって、自社のビジネスの拡大や収益の向上につなげていただければと思います。