会社経営に必要な法律 Vol.64 震災後の株主総会

会社経営に必要な法律

3月期決算の企業の株主総会が6月末にピークを迎えました。2011年3月11日に発生した東日本大震災によって設備や施設等に甚大な被害を受けた企業では、復旧の状況や今後の業績回復の見通し等について株主からの質問が相次ぎました。そこで、今回はこのニュースを取り上げ、株主総会に関する法的問題について解説し、また、ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項について解説します。
 

ニュースの概要

6月28日に都内のホテルで開かれた東京電力の株主総会には、100人を超える警察官が厳戒態勢を敷く中、早朝から約9300人の株主が詰めかけました。メーン会場だけでは入りきらず、総会の様子をテレビ中継するサテライト会場も4つ設けられました。総会では、福島第一原子力発電所の事故に伴う経営への影響等についての説明がなされると、会場からは激しいやじが乱れ飛び、原発事故の経営責任を追及する声が相次ぎました。また、議長不信任動議がなされ、数時間にわたる質疑が行われるなど、開催時間は6時間にも及びました。株主の関心は原発に集中し、脱原発を求める株主提案についても審議されましたが、これについては反対多数で否決されました。
また、翌29日には株主総会がピークを迎え、1028社が株主総会を開きました。東日本大震災による影響が大きい日産自動車(震災による損失396億円)や日本製紙グループ本社(同627億円)、東北電力(同1093億円)などにおける総会では、株主から復旧状況や業績回復の見通しについての質問が相次ぎました。これに対し、各社は、経営の状況や今後の方針について説明すると共に、企業としての決意を表明し、株主の理解を求めました。
 

法律上の問題

(1)株主総会
株式会社では、会社は株主の出資によって株主が所有していますが、日々の経営活動は株主の任命する経営者(取締役)に任されています(所有と経営の分離)。株主総会は、会社を所有する株主の総意によって会社の意思を決定する機関であり、定時または臨時に、召集手続きを経て開催されます。会社法は、株式会社における所有と経営の制度的分離を図るため、取締役会設置会社では、【表1】に記載される基本事項についてのみ株主総会で決定することとし、その他の事項の決定については取締役会に委ねています。これに対し、取締役会非設置会社では、株主総会で一切の事項について決議することとされており、その点において、取締役会非設置会社では株主総会は万能の機関であるといえます。

【表1】株主総会の権限

  取締役会設置会社 取締役会非設置会社
株主総会で決議できる事項 1.取締役・監査役などの機関の選任・解任に関する事項
2.定款変更、合併・会社分割などの基礎的変更に関する事項
3.剰余金配当、株式併合などの株主の重要な利益に関する事項
4.取締役の報酬の決定など取締役会に委ねたのでは株主の利益が害されるおそれが高いと考えられる事項
5.定款に定められた事項
一切の事項

(2)株主提案権・事前質問状制度の利用
株主は、株主提案権や事前質問状制度を利用することにより、株主総会における審議に積極的に参加することができます。
1.株主提案権
今回は、東京電力における脱原発を求める株主提案をはじめ、多数の企業において株主から提案された事項について審議が行われました。取締役会設置会では、少数株主(6ヶ月前からどの時点をとっても総株主の議決権の1%以上または300個以上の議決権を有していた株主)は、【表2】に記載される株主提案権を行使することができます。株主提案権を行使するためには、取締役に対して総会の8週間前までに、書面で請求することが必要です。ただし、法令・定款に違反する内容の議案等の提出は認められません。

【表2】株主提案権。

株主提案権 権利の内容
議題の提案権 総会で一定の事項を議題とすることを請求する権利
例:「取締役選任の件」
議案の提出権 株主総会の目的である事項について議案を提出できる権利
例:「Aを取締役に選任する件」
議案の事前通知請求権 提出する議案の要領を株主総会の招集通知に記載することを請求する権利

2.事前質問状制度
株主総会において、取締役及び監査役は、株主から質問がされればこれに応じて説明をする義務があります。ただし、その質問事項が、説明をするために調査が必要である場合、説明をすることにより会社やその他の者の権利を侵害することとなる場合、他の質問と実質的に同一である場合、説明をしないことに正当な理由がある場合には、説明を拒否することができます。 これに対して、取締役や監査役に株主からの質問を拒否させないための制度として事前質問状制度があります。この制度は、株主が株主総会において質問する事項について、その質問に対する説明のための調査に要する相当期間前に、書面で通知した場合は、取締役や監査役は、説明のための調査を要することを理由として説明を拒否することができないとするものです。 ただし、取締役や監査役の説明義務は、株主総会で株主から質問されて初めて生じるものであることから、たとえ事前質問状がだされていても、株主総会で実際に質問されなければ、これに対する説明義務は生じません。

3.11の震災後の6月末の株主総会における株主からの質問事項等は、震災によって直接的な損害を受けた企業とそうでない企業とで異なったものと思われますが、今後、開催される株主総会については、被災時からどのくらいの期間が経過してから開催されるかによっても、その内容は異なってくるものと思われます。
被災直後においては、株主の関心は、震災による被害の状況、従業員の被災状況、救援活動、被災した工場や事務所等の復旧の見通しや保険の適用などにあったと思われますが、ある程度の日時が経過することにより、株主の関心は、今後の事業の継続、決算等への影響、長期的復興計画、これまでの災害対策の内容と今後の災害対策、およびそれにかかるコストなどへと移っていくものと思われます。
今年、これから株主総会を開催する企業としては、自社の株主総会の時期に応じて、開催時において株主がどのようなことに関心をもつかということを十分に検討したうえで、想定問答集等を作成するなどして、事前準備をしっかり行うことが求められます

ベンチャー企業の経営者として

平成17年の会社法制の抜本的改革により、中小企業やベンチャー企業などの株式について譲渡制限がなされている非公開会社には、定款自治の拡大や機関設計の自由化等を含め、経営に関して大幅な選択の自由が認められ、機動性・柔軟性の高い経営を行うことが可能となりました。

改正後の会社法の下で、非公開会社として機動性・柔軟性の高い経営を行っているベンチャー企業も、いったん上場すれば、それまでにはなかった様々な法的規制を受けることになります。株主総会に関する法的規制は、非公開会社と株式について譲渡制限がない公開会社で証券取引所へ上場した会社とでは大きく異なっていますので、ベンチャー企業の経営者としては、この点について十分に認識しておくことが必要です。

特に、最近の株主総会の傾向として、物言う株主や議決権を行使する株主の増加が認められ、経営者は、会社に対して善管注意義務や忠実義務を負って職務を執行する者として、会社のオーナーである株主に対し、誠実に説明義務を果たすことが求められています。
また、上場企業の場合、株主総会を開催するに当たっては、会場の手配、株主状況の確認、計算書類の作成、総会における議事進行のシナリオや想定問答集の作成、招集通知の送付、事前質問状の受付などの準備手続きを、細心の注意を払って、入念に進めることが必要とされます。総会当日においても、事業報告や議案の決議など、総会の進行に当たっては、総会に関する法的ルールを遵守して、法的ルール違反による決議取消原因の発生を防止するために最善を尽くすことが求められます。

企業は、株式市場において株式を公開して上場企業となることにより、多くの資金を調達することが可能となり、より高い信頼を得て、より大きな取引を行うことができ、また、より優秀な人材を確保することも可能となります。しかしそれと同時に、上場会社の経営者は、すべての株主に対して、会社の運営を委任された者として、経営責任や説明責任を厳格に果たす責務を負うことになります。
上場を目指しているベンチャー企業の経営者の方には、常にこうしたことを念頭において、日々の事業活動に取り組んでいただきたいと思います。