会社経営に必要な法律 Vol.11 三洋電機の違法配当からベンチャーが学ぶこと

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
三洋電機株式会社の過去の決算について、損失を過小評価するなどの不適切な会計処理が問題となっています。また、問題となっている決算を訂正すると、その時期に行われた株主への配当が、原資を超える違法なものになるとのことです。今回は、このニュースを題材に、株主への配当に関する法規制について説明していきましょう。

1.ニュースの概要

 過去の決算において、不適切な会計処理があるとの指摘を受けていた三洋電機は、2001年3月期から2006年3月期までの単独決算を自主訂正しました。そして、訂正後の決算を前提とすると、すでに行われた2002年9月期中間期から2004年9月中間期の配当は、配当可能な利益がないにも関わらず行われたもので、違法配当であったことになります。違法配当の額は、合計約 280億円にものぼるとされています。

 これを受け、2007年12月、証券取引等監視委員会は金融庁に対し、三洋電機の2005年9月期の半期報告書につき、金融商品取引法に違反する虚偽記載があったとして、同社に830万円の課徴金納付命令を出すよう勧告したことを公表しました。

三洋電機は、業績不振の子会社の株式評価損を過小評価するなどした結果、当該報告書において、純資産額を実際より500億円以上多く記載していたということです。

 なお、報道によれば、三洋電機は、不適切な会計処理につき、意図的なものではなかったとして、当時の取締役に対する損害賠償責任の追及や刑事告訴を見送る方針とのことです。

 

・証券取引等監視委員会による公表
http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2007/2007/20071225.htm

・三洋電機 「課徴金納付命令の勧告について」
http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0712news-j/1226-2.html 

・三洋電機 「過年度決算訂正に関するご報告」
http://www.sanyo.co.jp/koho/hypertext4/0712news-j/1225-01.pdf 

 

2.法律上の問題点

 株主への配当に関しては、会社法に定められています。なお、今回の事件において、問題となる決算が行われたのは、会社法の前身である旧商法が適用されていた時期であることから、今回の事件については、旧商法に従って考えることになります。

 そこで、ここでは旧商法での配当規制の理解をベースに、会社法でどのように配当規制が改正されているのか確認していきましょう。

 

(1)旧商法における配当規制

 会社に利益がないのに配当を行うと、会社の資本を食いつぶし、会社債権者が不利益を受けることとなります。そこで、旧商法では、そのようなことがないように、「配当可能利益」の範囲内でしか配当ができないこととしていました。そして、この「配当可能利益」を超える配当を「違法配当」といいます。

 今回の事件では、関係会社株式の減損評価ルールを適切に適用して、決算を修正した結果、決算訂正前に比較して「配当可能利益」が減少したため、決算訂正前は「配当可能利益」の範囲内であったはずの「実際の配当額」が、訂正後には「配当可能利益」を超える違法なものとなったのです。

 

(2)会社法における配当規制

  2006年から施行されている会社法では、配当規制につき、旧商法から若干の修正がなされています。以下のポイントを確認しておきましょう。

 

ⅰ)「剰余金の配当」

 旧商法における「利益配当」は、会社法においては、「剰余金の配当」と呼ばれています。(会社法461条)

ⅱ)配当回数・時期

 配当の時期につき、旧商法では、中間配当、期末配当のみを認めていましたが、会社法では、期中いつでも配当ができるように  しました。(会社法453条、454条1項)

ⅲ)現物配当

 旧商法では、金銭による配当のみを認めていましたが、会社法では、金銭以外による配当(現物配当)も認めています。(会社法309条2項10号)

ⅳ)日割配当

 日割配当とは、期の途中から株主になった者について、株主であった期間の割合に応じた額の配当を行うものです。旧商法では、実務上広く行われていましたが、会社法ではこれを認めないものと解釈する説と、認めるとする説があります。(会社法454条3項)。

 

(3)違法配当の場合の責任

 会社法上、違法配当を行った場合に責任を負うのは、配当を受けた株主と、配当に関与した取締役などです。両者はともに、違法配当額に相当する金銭を会社に支払う責任を負います(会社法462条1項)。ただし、配当に関与した取締役等は、過失なく行ったことを証明したときには、免責される余地があります。

 なお、今回のように、配当決定の前提となった決算自体に誤りがあったようなケースでは、取締役などが、違法配当自体についての責任が問われなかったとしても、その配当の前提となった誤った決算を提出したことについて、損害賠償責任などを問われる可能性があります。

 

3.ベンチャー企業として

 株主への配当に関する規制は、上場の有無を問わず、株式会社であればどこでも必要な知識です。特に、会社法の成立によって、従来の配当に関する規制が変わっていますので、変更点を把握しておくことは必須といえるでしょう。

 また、配当は、株主にとって直接的な利害を持つものです。このため、今回のように、違法な配当がなされた場合には、取締役が、直接責任を問われることにもなりますので、経営者としては、非常に重要な問題といえます。

 ただし、配当に関する具体的な計算については、会社法施行規則、会社法計算規則などの政省令に委任されていることが多く、またそれらの規定を適切に解釈・運用していくには知識を要します。ですから、実際に配当を決定する場合には、税理士や公認会計士、弁護士などに相談をすることが必要になるでしょう。

 そこで、経営者としては、最低限、2で説明したような、会社法における配当規制のポイントを把握しておくことが必要です。

 また、今回、三洋電機は上場会社であったため、決算の修正につき、会社法上の責任のほか、金融商品取引法上の責任を問われています。現在上場を目指しているベンチャー企業は、上場後には上場前と比べて、多くの義務や責任が課されるということも心得ておきましょう。

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