会社経営に必要な法律 Vol.21 管理職≠管理監督者 残業代のあいまいさを斬る!

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
「洋服の青山」などを展開する、青山商事株式会社は、2008年4月、これまで管理職として残業代などを支払っていなかった店長らに対し、残業代などを支給することを発表しました。今回は、このニュースを題材に、最近話題となっている管理職への残業代などの支払いについて説明をしていきましょう。

1.ニュースの概要

 2008年4月、「洋服の青山」をはじめとする紳士服チェーンを展開する青山商事株式会社は、これまで労働基準法41条2号の「管理監督者」にあたるものとして残業代などを支払ってこなかった、全国750店の店長と本社課長らに対し、残業代などを支給することを発表しました。

 同社は、これに伴い過去2年間に渡り、該当者に残業代を支払うということで、社会保険料負担を含む同社の支払総額は12億円程度になるとのことです。

 2008年1月、東京地方裁判所で、日本マクドナルドに対して、店長に残業代を支払わないのは違法であるとする判決があったことをきっかけに、店長の待遇を見直す動きが出始めたものといえるでしょう。

・青山商事の発表 http://www.aoyama-syouji.co.jp/news/2008/pdf/080408_01.pdf 

 

2.法律上の問題

(1)管理監督者とは

 今回のニュースでは、店長などが労働基準法41条2号の「管理監督者」にあたるかが問題となりました。では、「管理監督者」とは、そもそもどのようなものなのでしょうか。

 労働基準法41条2号は、「管理監督者」にあたる場合には、「労働時間、休憩および休日に関する規定」が適用されないことを定めています。これにより、管理監督者には「時間外労働(残業)」ということが生じなくなりますので、残業代も不要になります。ただし、管理監督者であっても、年次有給休暇や深夜業に関する規定は通常とおり適用されます。

 この「管理監督者」にあたるかは、行政通達により「経営者と一体的な立場にある者の意であり、これに該当するかどうかは、名称にとらわれず、その職務と職責、勤務態様、その地位にふさわしい待遇がなされているか否かなど、実態に照らして判断すべき」とされています。

 ここで注意しなければならないのは、企業で一般常識的に「管理職」としての肩書きのある者であっても、必ずしも労働基準法上の「管理監督者」にあたるわけではないということです。管理監督者と認められるには、あくまでも、その勤務実態が「経営者と一体的な立場にある」ことが必要です。しかし、多くの企業では、自社で「管理職」になれば、その実態が「管理監督者」とはかけ離れていたとしても、管理監督者として残業代などを支払っていないというケースが、実際にはよくあるようです。

・SMBCコンサルティング「労働基準法上の管理監督者とは?」

http://www.smbc-consulting.co.jp/company/solution/training/training_522.html 

 

 日本マクドナルドの判決では、店長の勤務実態につき、労働時間の自由裁量性が認められないことなどから、「管理監督者」にはあたらず、企業側に対し残業代などの支払いを命じたものです。

 日本マクドナルドの判決を受けて、厚生労働省が新たに、各地の労働局長に対し、「管理監督者」の判断基準を企業へ周知し、指導を強化する旨の通達を出したこともあり、今後各企業は雇用体系についての見直しを迫られることになりそうです。

・厚生労働省労働基準局監督課長「管理監督者の範囲の適正化について」http://www.jil.go.jp/kokunai/mm/siryo/pdf/20080404.pdf 

 

 実際、日本マクドナルド判決以降、同様の問題について、紳士服チェーン「コナカ」は、労働審判(事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルを、そのトラブルの実情に即し、迅速・適正かつ実効的に解決することを目的とする手続)を申し立てられ、また牛丼チェーン「すき家」は、刑事告訴されています。

 一方、今回の、青山商事の決定は、以上のような流れを受け、自社の雇用体系を早急に見直した結果であるといえるでしょう。

 

(2)違反のリスク

 実態が管理監督者でないにも関わらず、残業代などを支払っていなかった場合に企業側が負うリスクは次のようなものがあります。

 

(ⅰ).民事責任

 賃金の消滅時効は、2年となっていますので、少なくとも時効にかかっていない過去2年間分の未払い残業代などを支払うことが必要になります。また、裁判になり、企業側が敗訴した場合には、懲罰的な意味合いをもつ付加金(未払金と同一額)を上乗せして支払うように命じられることもあります。

 

(ⅱ).刑事責任

 労働基準監督署は、是正勧告に従わないなど、企業側の対応が悪質である場合には、刑事告発をすることがあります。また、従業員から労働基準監督署に対し、刑事告訴をすることもあります。残業代未払いによる刑事罰は、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。

 

(ⅲ).行政責任

 労働法は、行政法規なので管轄する労働基準監督署から企業に対し、指導が行われます。従業員が、労働法違反があるとして、労働基準監督署に相談をし、違反の事実が認められた場合には、是正勧告が行われます。これ自体は、拘束力がないものですが、数度に渡り是正勧告に従わない場合には、刑事告発の可能性もあります。

 

3.ベンチャー企業として

 今回の労働基準法の「管理監督者」にあたるかどうかは、日常用語のいわゆる「管理職」との混同もあり、企業にとっては判断が難しい問題といえるのではないでしょうか。

 しかし、「管理監督者」にあたるかについて、仮に企業側の勘違いによるものであったとしても、残業代未払いが判明した場合、過去の未払い分も含めて支払うことが必要となります。この場合、該当する社員の数にもよりますが、相当な額の支出が一度に必要になります。特に、上場準備をしているベンチャー企業にとっては、上場が遅延する可能性もあります。

 

 最近は、管理監督者の問題にとどまらず、偽装派遣など、労働問題が問題視されてきていることもあり、監督官庁も規制を強化していますので、これまで以上に、法にのっとった対応が必要となります。

 労働基準法をはじめとする労働法令は、従業員を雇用する企業にとっては日常的に関わる非常に重要な法律です。また、労働法令は、その解釈や運用について管轄官庁が、通達などを出していることが多く、その数も膨大なものになります。このため、管理部門にそれほど多くの人員を配置する余裕のない、ベンチャー企業にとっては、社内だけで労働法令を正確に把握し、適切に運用していくことは困難であるというのが実情です。そこで、企業としては、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談することが必要となるでしょう。

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