会社経営に必要な法律 Vol.47 その行為、インサイダーの恐れアリ。

会社経営に必要な法律
インサイダー取引規制に課徴金制度が導入されて4年。最近、証券取引等監視委員会に摘発されるインサイダー取引の件数が急増しています。そこで今回は、このニュースを取り上げ、インサイダー取引について法的な側面から説明し、ベンチャー企業の経営者にありがちなインサイダートラブルについて解説します。

ニュースの概要

証券取引等監視委員会が2009年に課徴金納付命令勧告の対象としたインサイダー取引は、2008年より9事案多い21事案でした。課徴金制度の導入から4年を経て、証券取引等監視委員会にも調査手法に関するノウハウが蓄積され、また、2009年1月から証券取引等監視委員会と証券取引所、証券会社を専用回線で結ぶコンプライアンスWANの稼働が開始し、調査作業の効率化が図られるなど、インサイダー取引がより迅速かつより確実に発見される状況になっています。
 

法律上の問題

(1) インサイダー取引とは
インサイダー取引とは、「未公表の重要な事実を知って、その公表前に株券等を売買等すること」をいい、(a)会社関係者等のインサイダー取引と、(b)公開買付け者等関係者等のインサイダー取引とがあります。
(a)の会社関係者等のインサイダー取引とは、上場会社などの会社関係者が、当該会社の業務などに関する重要事実の発生後、公表前に、当該重要事実を知りながら当該会社の特定有価証券の売買等をすることを原則として禁止するものです。

一方、(b)の公開買付け者等関係者等によるインサイダー取引規制とは、公開買付け者などの関係者が、公開買付けなどの事実の発生後、公表前に、事実を知りながら株券等の買付けまたは売付けなどをすることを原則として禁止するものです。インサイダー取引は、証券取引所の売買審査や証券取引等監視委員会の取引審査により監視されています。

会社関係者等
(a)の会社関係者等のインサイダー取引における「会社関係者等」とは、会社と一定の関係にある、【表1】に記載される人のことです。
【表1】



重要事実
(b)の会社関係者等のインサイダー取引における「重要事実」とは、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす情報であり、【表2】に記載される情報は重要事実となります。
【表2】




(2) インサイダー取引に対する罰則
インサイダー取引規制の違反者には、法律上、刑事罰と行政処分(課徴金)がなされます。近年、インサイダー規制を強化する観点から、違反者に対する罰則が厳格化されています。

刑事罰
刑事罰については、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科されます。また、法人を代表または代理して取引が行われた場合、法人に対しても5億円以下の罰金刑が科されます。さらに、インサイダー取引により取得した財産は、没収・追徴手続きによりはく奪されます。

課徴金
インサイダー取引規制違反にかかる課徴金の額は、次の計算式により算定されます。





 

ベンチャー企業の経営者にありがちなインサイダー取引のトラブル

問題】次の各行為は、インサイダー取引に当たるでしょうか?

Q1 A社の社長は、日頃から懇意にしているB社の社長から、近いうちに上場企業C社に買収される予定であるとの情報を内々に得たことからC社の株を購入した。

Q2 人材採用会社D社の営業マンが、上場企業E社から、近いうちに有力な新規事業を立ち上げる予定であるため、新たに50人の正社員を募集したいという依頼を受けた。D社の役員はこの報告を受け、E社の株を妻の名義で購入した。

Q3 G社はH銀行に社員を派遣しているが、H銀行の融資先の上場会社であるI社が民事再生手続の申立をするという情報をH銀行に派遣されている社員から入手したため、G社の社長はすぐにI社の株を売却した。

【答え】いずれの場合もインサイダー取引に当たる可能性があります。

インサイダー取引規制の対象となるのは、上場会社等の役員や従業員だけではありません。元役員や元従業員、上場会社などと取引関係がある者や交渉過程にある者、さらにはこれらの者から情報提供を受けた者まで、かなり広範囲にわたって規制を受けることとなります。たとえ、第三者の名義で取引を行っても、規制を免れるわけではありません。

また、少額の取引であれば問題にされないだろうという安易な考えは禁物です。現在の証券取引等監視委員会の調査では、不公正な取引はたとえ少額の取引でも、確実に発見されるようになっています。実際に、4万円という少額の課徴金が科された事案も発生しています。

インサイダー取引を行ってしまうと、刑事罰や課徴金が科されるだけでなく、社会的制裁も受けることになります。違反者を出した会社は、社会的な信用を喪失し、取引先から取引停止などの処分を受けることになります。また、違反者自身も、従業員であれば会社から懲戒処分を、役員である場合には解任されるなどの処分を受けたり、さらには、会社が被った損害について賠償請求されたりすることにもなりかねません。

ただ、インサイダー取引は、法律で定められる一定の身分の者が、法律で定められる未公表の重要事実を知って、未公表のうちに取引した場合に成立することから、自分が行おうとしている取引がインサイダー取引規制の対象となるか否か、すぐには判断がつきかねる場合もあるかと思います。不安に思ったときは、事前に弁護士などの専門家に相談してみることが良いでしょう。目先の利益に捕われて、大切なものを失ってしまうことのないよう、慎重に行動していただきたいと思います。