Vol.9 「MNP(携帯電話番号ポータビリティ)開始前夜」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
契約携帯電話会社 を変えても電話番号をそのまま引き継ぐことのできる「携帯電話番号ポータビリティ(MNP)」サービスの開始日が発表されました。2006年10月24日 (火曜)! MNPは、利用者に、ケータイ業界に、どんな影響を与えるのでしょうか? ケータイ研究家・木暮祐一氏にお話を伺いました。

ケータイ業界を洗う大波、姿をあらわす?

 「携 帯電話番号ポータビリティ(以下「MNP」)が06年10月24日(火)開始」という発表がありました。
来る、来る、と言われてきた大波がいよい よ姿をあらわしたのです。
きっとキャリア関係者の皆さんはあわただしく準備をすすめていることでしょう。

 しかし報道されている割 には、利用者側の関心がそれほど高まっているように見えません。
気のせいでしょうか? ちなみに…

「MNPがス タートしたらXXXのケータイに替える!」

と意気込んでいる人、あなたの周りにいますか?
「すぐにも、この機会 に!」という熱意を持っている方は?
わたしの周囲だけなのかもしれませんが、例えばニンテンドーDSライト発売の時のような熱気を感じないので す。

「替えたいような気はするんだけど、んー、どうなんだろうなあ」
「電話番号は変わらなくても、メールアドレス は変わっちゃうんだよ。意味なくない?」

 MNPに関する情報が明らかになるにつれ、むしろ慎重意見が多く聞かれるよう になった気がします。
そういえば関係者であるはずのケータイコンテンツ業界の皆さんの大半は「とりあえず、様子見」。
あれ? ケータイ業 界を洗う大波ではなかったの? MNPって?
少し肩透かしを食らったような気分すらしてきます。

 そこで今回、この新サービスが ケータイ業界にどんな影響を与えるのか、「日本を代表するケータイ研究家」木暮祐一氏に伺ってきました!

木暮祐一氏
『FMOBILE』『mobile!』編集主幹/ 戸板女子短期大学国際コミュニケーション学科講師

80年代後半からケータイ業界、およびケータイサービスをウォッチ。ケータイ情報を発信する各誌に携わる。
個人で所有する携帯電話の端末はゆうに1000台を超える。
現在はケータイに関する講演活動で東奔西走しながらケータイ専門のフリーマガジンの編集統括、
ケータイ業界動向をレポートするWEBサイトの編集主幹、「合同会社(LLC)移動体通信研究会」CEOなどを務め、
さらに大学で「ケータイ」をテーマにした教鞭も取る筋金入りのケータイ研究家。

●木暮祐一オフィシャルサイト http://www.kogure.biz/
 

 

インタビュー: MNPはケータイ業界になにをもたらすのか?

― 「携帯電話番号ポータビリティ」、まず肝心の利用者側の反応が鈍いように感じるのですが?

木暮氏
「現時点(8/15)では、まだMNPの手続きに必要な費用等の情報が出揃っていません。
 キャリアを変えても電話番号が引き継げると いうMNPのメリットがクローズアップされていますが、
 皆さんが頻繁に利用するメールアドレスは引き継げませんし、長期割引サービスも引き継げ ない。
 それどころか長期割引契約をしている方は途中解約で違約金が発生するというデメリットもあります。
 本来、これらメリットとデメ リットとを考え合わせ、総合的に判断したうえで自由にキャリアを選ぶことができる
 というのがMNPのよさなのですが…」

─ 検討に必要な情報が出切っていない現状では総合的な判断を下せない、ということですね。
  たしかに割引サービスの充実で「あそこは高い、ここは安い」と一概には言えなくなりました。

  それに途中解約の違約金のことまで考え出すと、どう判断していいのか難しいですね。

木暮氏
「結 局、利用者がMNPでどういう動きを見せるのかは、現時点で想像つかないんですよ。
 ただキャリアは今まで以上にサービス・料金の充実や、端末の 機能向上を競うようになるでしょう。
 利用者にしてみれば、よりオトクに便利機能やサービスが利用できるということ。
 MNPがスタート するからって、騒いだり焦ったりする必要はないんです。
 じっくりと比較検討したらどうですか、とわたしはオススメしています。」

─ では、ケータイ業界全体にMNPはどう影響するのでしょう?
 
木暮氏
「MNPを すでに導入している国の例を参考にできます。
 日本周辺の例では、香港が1999年から、韓国も2004年から、それぞれMNPを導入していま す。
 香港の携帯電話は"GMS方式"といって購入方法が日本とは異なります。
 好みの端末を購入したら、好みの通信事業者と回線契約を 結んでそのSIMカードを端末に挿入する。
 つまり、キャリアを変更しても端末を買い換える必要がないという点で、日本とは事情が異なります。
  とはいえ料金引き下げ合戦の様子やMNPの利用促進に向けた各キャリアの施策などは、大変参考になります。
 通信料定額制や長期割引と引き換えの 解約違約金などは香港が先行しました。
 また解約違約金相当の値引きなどを実施して、MNPの利用を勧めるキャリアなども出現しましたが、
  おそらく日本でも同じような施策が打たれるでしょう。

 韓国の場合は、日本の市場の状況に近く、参考にできるところも多いですよ。
  まず、キャリア変更の際には(日本と同様)端末も買い換えなくてはなりません。
 キャリアの状況も日本の市場と似ています。
 50%の シェアを占めるのがSKテレコム、ファッション性が若者から支持されている2位企業KTF、
 低価格をアピールする3位がLGテレコム。
  そっくりでしょう?
 しかも韓国のMNPは独占的事業者であるSKテレコムから2位、3位企業にユーザーを移行させることで
 サービス提 供の公正化を図りたいという目的で導入されました」

─ ユーザー数を平準化させたいという政府の意図が先にあったんですね。

木 暮氏
「そうです。そこで04年1月にSKテレコムの利用者限定でMNPを解禁し、7月にKTF、翌年1月にLGテレコム…
  と段階的に導入してゆきました。
 ところが全事業者にMNPが導入された後、利用者の動きが一巡した結果、3社のシェアは大きくは変わりませんで した。
 日本にもあてはまるとすれば、それなりにMNPの利用はあるものの、シェアは大きく変動しないということになるでしょう」

─ えっ、そうなんですか?

木暮氏
「さまざまな見方があります。
 ただ、日本の場 合、どうしても端末の買換え時にMNPを利用することになります。
 魅力的な端末が発売されたのに利用しているキャリアが違うので指をくわえて我 慢した、というのはもう過去の話。
 そういうタイミングでMNPを利用して好みの端末を購入するようになるはずです。
 ということは、い かに魅力的な端末を投入できるか、ということが勝負になってくるでしょう。
 調査ではauが優位だというものが少なくないのですが、わたし個人と しては、実はソフトバンクがじわじわと健闘してくるのではないかと予測しています。」

─ ソフトバンクですか!
  たしかに既存キャリアにない新しい施策を期待してしまいます。

木暮氏
「旧ボーダフォ ン時代に、端末で失敗した経験を持っています。
 これが今後はソフトバンクの強みになっていくでしょうし、それ以外のサービス面でも、他のキャリ アにない施策を投じてくるでしょう。
 たとえば、これまでキャリア各社は利用者の囲い込みを目的に、自社限定のサービスを推進をする風潮がありま した。
 プッシュトーク、着うたフル+LISMOといったのがその例ですね。
 それはそれで楽しめるのかもしれません。
 しかし キャリアに縛られないオープン環境のサービスの方が便利だと利用者も気付きはじめています。
 ソフトバンクの端末にはYahoo!コンテンツに ジャンプする「Y!」ボタンが搭載されるのですが、
 オープンなコンテンツネットワークとケータイ端末が直結する意義はとても大きいと思います」

─ MNPを顧客メールアドレスの無効化とかキャリアのシェア争いとかいう視点から考えているとあまり気乗りしない話題ですが、
  ケータイコンテンツのオープン化という新しいパラダイムへのカギなのだと思うと、輝き出しますね!

木暮氏
「端 末販売時のインセンティブの見直し議論も出てくると思います。
 日本の携帯電話基本料が世界水準に比べて高いのは新規獲得のインセンティブが上乗 せされているためです。
 端末が多少高価になってもランニングコストが安くなるということになれば、
 利用者はもちろん、長い目で見れば キャリアにも、サービス提供企業にも有利になるはずです。
 そういう意味で、MNPはケータイ業界のさまざまな慣習を変えるターニングポイントとなる 可能性を秘めているといえるでしょう」

─ なるほど。なんだかMNP開始が、がぜん楽しみになってきました。
  本日はありがとうございました。

 

インタビュー後記

MNP についてのお話を伺ったのですが、結局ケータイコンテンツのオープン化や商慣習見直しのお話に行き着いてしまいました。
WEBのサービス全体が新 しい進化を遂げようとしているいま、ケータイサイトにはもっとカンタンに、自由に、大胆に、制作・運用できる環境が求められています。
ケータイサ イトを(キャリア区別などを気にすることなく、PC用WEBサイトと同じように)オープンに制作・運用できる環境が提供されれば、未参入のプレイヤーや新 たなベンチャーが活躍できる市場が拡がるのは明らかです。
現在のこのクローズな環境を新参入キャリア・ソフトバンクが変革しようとするのか? ま ず、そこに注目したいと思います。
そして変革を進めようとするとき、MNPは強力な武器になるはずなのです。

あわただしく準備を進 めているキャリア各社には少し気の毒ですが、MNPは「パンドラの箱を開くカギ」なのかもしれません。

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