知的財産:Vol.18 「イナバウアー」はだめで「そのまんま」はいい?商標登録の不思議

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
特許庁が、日本のメーカーから出願されていた「イナバウアー」の商標登録出願を拒絶したと先日のニュースで報じられました。流行語にもなった言葉ですが商標登録との関係では、意外な制約があります。コラムのVol.13で取り上げた「そのまんま」との違いを含め説明していきます。

「他人の氏名や著名な略称」は登録できない

 商標法では、当人の承諾を得ない限り、他人の氏名や著名な略称を商標とする登録は認められません。著名な名称の商標登録は他人の名声にただ乗り(フリーライド)する行為であると考えるからです。著名な今回の「イナバウアー」は、ドイツのイナ・バウアー選手の名前から付けられたスケーティングの名称で、特許庁はバウアーさんの承諾のない出願は拒絶の対象だと判断したようです。

 

もし登録が認められてしまうとどんなことが起きる可能性があるのか?

 では、「イナバウアー」が特定の商品とはいえ、特定のメーカーによって商標登録されたと仮定します。この場合、どのような問題が生じるのでしょうか?その場合、「イナバウアー」と銘打った商品が市場にでることになります。まず消費者は、その商品がスケートに関係する商品ではないかと勘違いすることになると思われます。また、荒川静香さんが関係した商品だと感じる人もいるでしょう。この時点で、品質の誤認を与えたり、出所の混同を生じさせたりといった問題が生じてしまいます。この案件では、さらに、消費者が荒川静香さんをイメージすること自体が、イナ・バウアー選手とは関係なく一人歩きする可能性があり、問題を一層複雑にしてしまうことになります。このように、消費者に対して多くの誤解を与える商標が、本人に無関係な会社によって独占されることは、何かおかしいとは思いませんか?

 

名声へのただ乗り・イメージの希釈化・イメージの毀損

 では、商標登録を得ないで、勝手に商品名に「イナバウアー」を使った場合はどうでしょうか。まず、他人の名声にただ乗りした便乗商法だということはすぐにわかると思います。消費者に、本人監修の真正商品だと思わせて商売をするといった、不正競争目的の商行為といえます。ただ、本件の場合は、イナ・バウアー選手本人が商品を売ることはおそらくないでしょうから、本人に対する損害は直接的には生じないと考えられます。しかし、もし、その商品がとんでもない低品質の粗悪な商品だったらどうでしょうか?本人のイメージが低下(希釈化)し、名声に傷が付く(イメージの毀損)ことになってしまいます。著名な商標を自由に使わせることは、このような危険性を内包しているのです。

 

「そのまんま」が先に他人に登録された理由

 一方で、宮崎県知事にまつわる「そのまんま」は、すでに他人による多くの登録があります。これはいったどうしてでしょうか?それは、「そのまんま」だけでは、「そのまんま東」さんを消費者が直接連想するには至っていなかったからです。「そのまんま」だけでは、個人を指しているのか、状態を指しているのか、特定の商品を指しているのか、すぐに一義的に消費者は判断できないのです。日本では、消費者の信用が化体していない商標にあらかじめ権利を付与する制度をとっていますので、第三者の登録が認められてきたのです。

 

でもやっぱり使いたい

 どうしても使いたい場合は、本人の同意を得ることが最低条件です。ただし、この案件のように荒川静香さんの名声も関係していますので、かなり慎重な判断と行動が求められると思われます。

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